網膜剥離ー悪魔の接吻 その2
どーも、景嗣です。
さて、「網膜剥離闘病記」の続編である。
「網膜剥離ー悪魔の接吻 その1」を読んでいない方は、そちらを先に読むことを勧める。というか読まないと全然話がわからんよ。
↑「その1」のリンクである。各自確認して頂きたい。
網膜剥離の手術を受けてから、約2週間ほどの入院生活を経て。
僕、景嗣は退院することができた。
退院した日の景嗣である。まだ眼内に入れた気体がかすかに残っている時だった。家に帰った後も引き続きうつ伏せで生活していたよ。
ここから数週間は定期健診、抜糸と、着実に快方に向かっていった。
ただ少しだけ気がかりだったことがある。
人間の眼表面には「結膜」という部位がある。
マブタの内側から眼表面に懸けてまで眼表面を覆う薄い膜のことである。
これのおかげで、眼球へのバイキンの侵入を防ぐことができ、目を清潔に保つことができるのである。
網膜剥離の手術をするときには、この結膜が剥がれている状態らしいのだが。
およそ、術後からこれくらいの時期には、普通結膜が再生されている。
しかし、何故か僕の結膜は、うまく再生されてないのである。
主治医いわく、「アトピー体質ゆえに粘膜系の再生が遅いのかしら」とのこと。
まぁ、そうこうしているうちに、脆弱ではあるが結膜が張ってきた。
このとき、僕の目は「結膜が脆くて再生しにくい」特徴があることをそんなにも重要視していなかった。
安心していた。ほんの数週間だけ・・・・
「悪魔が僕にキスをした・・・」
ある日、僕の右目から、「白い紐」がヒョロっと出てきたのである。
明らかに異常事態である。急いで病院に行った。
どうやら、バックルの縫合糸が再生しかけの結膜を破って出てきたようである。
緊急手術だ。紐の除去である。
まぁ、さすが腕利きの先生だ。ものの数10分で手術を完了させた。
しかし、気がかりなことがあるというのだ。
結膜が薄いというか脆すぎる、というのである。
予後経過において、結膜の再生があまりにも難航しているようだ。
眼表面に結膜がうまく張っていないと何が具合が悪いのかというと、とある効果のある目薬をいつまでたってもさせないからだという。
読者諸君は、「眼圧」という概念を知っているだろうか。
人間の目は常にその形状を保つために、内側から一定の圧力をかけるようにできているという。それが眼圧だ。
読者諸君は賢いから知っているだろうが、この眼圧の機能に異常が起きて、通常よりも高い眼圧がかかる時がある。
そうなると、過度に網膜が眼底に圧迫される。その結果、網膜の神経が痛んでいき、ゆくゆくは神経が死んでいき、失明に至る。
そう、これがいわゆる「緑内障」というやつだ。
緑内障の治療方法としては、眼圧を下げるための目薬を点眼することで、網膜の神経が痛むのを遅らせるというのが一般的である。
眼球に対して何らかの侵襲を加え、炎症を起こさせたとき、すなわち目の手術のあとは決まって眼圧が上がるらしい。
ただでさえ、網膜が弱っている状態なのだ。なるべく早急に眼圧の上昇に対応せねばならない。
しかしながら、眼圧を下げるための目薬は効果は高いものの、ある弱点がある。
それは、眼表面の組織が傷ついているときは点眼してはいけないというのである。
そう、結膜が再生しきれば、眼圧を下げる目薬を点眼できるのだが、いつまで経っても眼表面に結膜がうまく張らない僕は、眼圧を下げる目薬を点眼できないのである。
この場合、効果が低く副作用の激しい飲み薬を飲んで、かろうじて眼圧を下げるしか方法がないのである。
この飲み薬がとんでもない飲み薬なのだ。身体中の水分が抜けて半脱水症状のようになる。さらには常に動悸がする。走ってもないのに息切れする。あとクラクラする。その割に眼圧低下の効果は低いのだ。まったくとんでもない。
まぁ、眼表面が安定しないうちは、服薬で何とか眼圧の調整をしなければならん。少しの我慢だと思って、服薬していた。
以上に、長々と「結膜」と「眼圧」について話をさせて頂いた。
「結膜」と「眼圧」に関する上記の説明が、以下に話をしていく内容を理解するうえで非常に重要な知識になる。しっかり押さえておいてほしい。
「悪魔が僕にキスをした・・・」
とんでもないことが起こった・・・・
見てわかるだろうか・・・
・・・眼球の右の方に白いシリコンが見えるだろうか・・・・
そう、眼球の周りに縫合していたバックルが結膜を突き破り、眼表面に露出してきたのである。見たところかなりの体積のシリコンが露出している・・・
紐が露出するくらいならまだいいが、これはかなりマズイ状態なのである。
先ほどの説明のとおり、結膜にはバイキンを眼球に通さない役割がある。
この露出しているシリコンバックルにバイキンが直接付着したらどうなるか・・・
結論を言おう。眼球の裏側までバイキンが繁殖し、ゆくゆくは失明してしまうのである。急いで、何らかの方法を用いて、シリコンを結膜で覆う必要がある。
僕の主治医が編み出した方法がこれだ。
↑赤い部分は結膜である。
そう、バックルが露出している面に別の結膜を牽引して覆う。そして縫合する。これで何とか一時的にバックルの露出を回避できるとのこと。
緊急手術だ。
簡単な手術のようだが、これが意外に出血量がバカにならん。
何度ガーゼを取り換えても出血してしまう。
なにより、麻酔がキレたらトンデモなく痛い。
まぁ、とりあえずバックルの露出は回避できたのだ。何とかなった。
・・・・と思うのも束の間だった・・・・
約6日後・・・
「ウソだろ・・・・またバックルが露出している・・・」
前回と同じ部分、6日前にムリヤリ結膜を牽引して縫合した箇所である。
思い出してほしい・・・
僕の結膜は、常人に比べてかなり「脆弱」であることを・・・・
通常なら、結膜で覆い隠せる手筈だったが、結膜の脆弱さゆえにバックルがまたもや結膜を突き破ってきたのである。
当然、再手術だ。
主治医は、やむなく前回と同じ処置方法で何とかその場を凌いだ。
出血がスゴイ。痛い。でも何とかバックルが隠れた。
5日後、またバックルが結膜を突き破っていた・・・
当然再手術・・・・
もうだいたいわかるだろう・・・・
バックルが結膜を突き破っては、別の結膜でバックルを覆い・・・という作業がこのあと何度も繰り返されたのである・・・
結膜の縫合手術を行うたびに、術日からバックルが露出するまでの期間が、
6日→5日→4日→3日→2日→1日→当日 という風にインターバルが短くなっていった。
上の事実から、僕の結膜は相当弱いということと、手術の最低回数がうかがえるだろう。。。
バックル露出を繰り返しているとき、バイキンがシリコンに付着してはいけないのだ。まともに風呂も入らせてくれなかった。
絶え間なく続く縫合の痛みと、バックルが露出したときの絶望感と、ゾンビのような毎日の生活。
このころ、僕は人間の感情を完全に失っていた。
「悪魔は僕の唇を甘噛みしたまま、一向に抱擁を解こうとはしてくれなかった」
さて、そろそろ文字数の関係上、この辺で本稿を終わらして、明日以降に続編を執筆する。
次の続編に向けて一つ、読者に想像しておいてほしいことがある。
結膜縫合の作業が何度も行われたのである。僕の目は毎週のように侵襲を繰り返し、常にキツイ炎症を起こした状態だったのである。
僕の右目に、ある異変が起こって来始めるのだ。それは何であろうか。
今までの記事を読んでいれば何となく想像がつくであろう。
読者諸君、各自考えておいて頂きたい。
「悪魔が僕にキスをした・・・」
「悪夢はまだ終わらない・・・悪夢はこれからだ・・・」
まだ続く
景嗣
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